動画入門講座① 動画と静止画の違い

1. 動画と静止画の違い

写真と映像の大きな違いは、場面の切り抜き方にあります。時間の一瞬を切り取った映像が写真です。
これに対して映像(動画)では時間の経過とともに映像は変化していきます。写真と映像とでは、時間の使い方が違うのです。

写真は瞬間を切り取った“1 枚の絵”
写真は瞬間を切り取るものです。つまり、写真はある出来事の瞬間を待ってそれが起こった瞬間にシャッター
を切ります。あらかじめターゲットを明確にし、目の前にあるものをこういう感じで写真として残したい、
というイメージを持って写真を撮ります。
作品を鑑賞する際には、写真ではそこに映し出されている現実に直接入り込むというよりは、写真で表現し
た一枚の“ 絵” を強く意識させます。そして、写真が撮られた状況や伝えたいことなど、見る側の想像の余
地が大きいのが写真であるとも言えます。

映像は時間を切り取った連続
一方で、映像は時間を切り取るものです。映像はその瞬間を予測して事が起こる前にカメラを回しはじめなくてはなりません。事が起こった瞬間にシャッターを切っては遅いのです。映像はシャッターを押す一瞬だけに集中すればいい写真とは心構えは大きく異なります。さらに音という要素も入ってくるので、写真と同じようには撮影できません。

映像は意図しない場面も写り込んでくる
映像の場合も、もちろん撮影対象はあるわけですが、映画の撮影でもない限り、こういう感じで映像として残すというイメージは、写真ほど明確ではありません。そのため、映像で撮影したものには、撮影者が意図していないものが映り込んでいることが、写真とくらべて多々有ります。撮影者の意図していないもの、悪い言い方ではノイズが、良い言い方では臨場感が映像に入ってくることで、写真とは違ったかたちで表現することができます。

映像作品は編集が必須&編集次第で変わる
また映像は、通常編集なしには作品は成立しません。編集することで制作側の意図をより正確に伝えることができます。時間が経っても編集できますし、編集次第で視聴者によりインパクトを与えることもできます

映像は見るものに疑似体験させる
映像は具象的で、絵そのものよりもその内容に入り込むことができます。すぐれた映画やTV であればその画面の枠をいつの間にか忘れ、場合によっては映像の中身を疑似体験することができます。映像は動きがあるものをわかりやすく伝えられることができますが、その一方で映像が次々に流れていくため、見る人が細かい部分の描写までを記憶することは難しいという面があります。

動画の爆発的普及
(ホームビデオを除き)従来の映像作品は映画やビデオの専ら職業的専門家が取り扱うものでしたが、動画機能が付いた一眼レフやスマホの普及で、誰でも簡単に動画を撮ることが出来るようになりました。ネット上で動画サイトのYouTube の人気が高いのは、写真と較べて動画の方がいろいろな情報をわかりやすく伝えることができるからだと思います。

撮影時の基本設定

業務用のビデオカメラにはたくさんのスイッチ類がついていて圧倒される。また一眼レフカメラの動画撮影メニューも静止画とは違った構成になっている。今回は静止画と異なったこれらの機能を一つ一つ確認していこう。

動画撮影機能の分類

一眼レフにもたくさんの動画機能がある

プロ用の高機能なビデオカメラでもフルオートモードがあり、これにしておけばとりあえずはカメラ任せで撮影はできる。電源を入れて録画ボタンを押すだけで撮影できるので、急いでいるときや条件の判断がつかない時は便利だ。しかし、静止画の作品作りと同様に、画作りを考える場合にはマニュアルモードで撮影しなければならない。また、静止画の画素数や画質モードに加え、動画が再生される際のフレームレートの問題もあり、やはり静止画撮影以上に、最低限の知識は必要だ。
業務用ビデオカメラにたくさんのスィッチがあるのは、撮影しながらこれらの操作に対応するために進化してきた結果で、分かってしまえば合理的な仕組みになっている訳だ。図は動画でのマニュアル撮影の際のスィッチ類を機能別に分類したものだ。

マニュアルモードの機能別分類

 

①ズームは画角を決めるのに調整する機能
②フォーカスはピント合わせに関する機能
③ホワイトバランスは色温度の調整に関する機能
④アイリス、ゲイン、シャッター速度は明るさ調整に関する機能
⑤音声は音の調整に関する機能

ビデオカメラについているたくさんのスィッチ類、延いては撮影時におさえなければならない機能は、基本的にこの5 つに分類できる。
これら5 つの機能と操作を、まず一般的なマニュアル機能を持つ小型ビデオカメラを中心に見ていき、後半で一眼レフカメラの操作系と比較してみよう。

ズーム
ズームはこのカメラ(SONY Handycam HDR-PJ790V)の場合、上面のT/W ボタンで操作する。特徴的なのはズームレバーが可変することで、レバーを軽く動かすとゆっくり、さらに押すと早くズームするが、基本的にはこのゆっくりしたズームの操作に慣れることが重要。(動画ではあまり早いズームは見ている方が気持ち悪くなる)光学10 倍(35mm 換算で26-260mm)、さらに17 倍までのエクテンデッドズーム、120 倍までのデジタル処理によるズームも可能。尚、ここクラスではズームのマニュアル機構はない。

ズームレバーはゆっくりと

 

フォーカス
フォーカスはAF が基本で、モニター上のタッチした部分にピントを合わせるスポットフォーカスが便利だ。前面のMANUAL ダイヤルでマニュアルフォーカスも可能。ビデオカメラの特徴として、ピーキング機能がある。これはピントが合っている部分の輪郭を色で表示する機能で、特にマニュアルでのピント合わせにたいへん便利なものだ。

ピーキングはピントが合っている部分を色で表示する

 

ホワイトバランス
ホワイトバランスは動画撮影ではもっとも重要だ。静止画ではRAW 撮影などで、ホワイトバランス等の微調整は後からでも…というのが一般的になっているが、動画の編集上での画質調整は静止画に比べずっと困難で、特にホワイトバランスについては(キレイに補正することは)ほぼ不可能と言ってよい。
これらの機種ではATW が非常によくできていて、通常の撮影ではほぼ満足した結果が得られるが、やはりきちんとした撮影の場合はきちんとホワイトバランスをとってから撮影しよう。
このカメラの場合、タッチパネルのメニューからカメラ・マイクとすすんで、ホワイトバランスを選択、ワンプッシュ△■△を選択して白い紙などを画面いっぱいに撮影して合わせる。
このプリセットホワイトバランスの撮り方は、動画撮影の場合は、依然として一番大切な撮影前の儀式ともいえる。使用するそれぞれの機種で異なるが、しっかり習熟しておこう。


白い紙などを画面いっぱいに撮影して合わせる

光量(露出)
露出もカメラまかせが基本だが、メニューからAE シフト、絞り優先、シャッター優先、完全なマニュアルも選べる。こちらにもビデオカメラの特徴としてゼブラ機能がある。これは画面上の映像の中で、基準の明るさに達した部分を縞模様で表示する機能で、明るさ調整の目安にすると便利だ。
このカメラの場合輝度レベル70(IRE)と輝度レベル100(IRE)を切り替えて表示することが出来る。輝度レベル70(IRE)は主に人間の肌の明るさに合わせた値で、100(IRE)は白トビになる。


ゼブラ表示①輝度レベル70(IRE)


ゼブラ表示②輝度レベル100(IRE)

絞り(アイリス)
絞りはビデオカメラの世界ではアイリス(Iris:英語)と呼ばれる。
この機種のような小型ビデオカメラでは、撮影中に表示されているアイリス値は2.8 とかとか小さい値が普通だが、CCD サイズが小さい(1/2.88 型:F1.8-3.4)ので、ピントを外す心配は少なくボケも少ない。一眼レフやプロ用の大型センサーのビデオカメラの場合は、通常の静止画と同じ感覚の被写界深度感覚で臨めばよいだろう。


ビデオカメラのセンサーサイズ比較

シャッター速度
シャッター速度にはちょっと注意が必要。
シャッター速度が遅いと、シャッターが開いている間に動いた被写体の軌跡が写り込む「ブレ」が生じる。
静止画の場合はブレた写真は多くの場合失敗になるが、動画ではブレを上手く使うことによって“ 動き” を表現する。そのためビデオカメラの設定では、動く被写体を滑らかに撮影するためにシャッター速度に制限を設けている。(一般的には1/60 秒程度)シャッター速度が速いとそのようなブレがなく、まるで止まっているかのように一瞬を切り取った写真になる。ビデオカメラは1 秒間に30 ないし60 回シャッターを切っていることになる訳で、速すぎてもカクカクとした不自然な動画になってしまうのだ。


資料映像:1/30 と1/500 の映像

フレームレートとシャッター速度の関係
ビデオ撮影時のシャッター速度の制限には「フレームレート」が関係している。フレームレートとは、1 秒間に表示できる「コマ数」のことで、単位はfps(Frames Per Second) で、30fps、60fps などと表記される。30fps では1 秒間に30 枚、60fps では1 秒間に60 枚の画像を表示して動画にしている。
ビデオ動画ではフレームレートが大きいほど表示できるコマ数が多く、滑らかな動きの映像となる。一般的なビデオカメラのフレームレートは30fps で、こ
の30 枚の画像を用意するために、ビデオカメラは1 秒間に60 回シャッターを切っている。
一眼レフではそもそも指定したフレームレート以下のスローシャッターは切れないような設定になっているが(60p は1/60・30p は1/30 まで)、これ以上シャッタースピードを遅くすると30 枚のコマが用意できず、カクカクとした不自然な動画になってしまうのだ。
注:ビデオカメラでは可能な機種もある。


一眼動画のサイズとフレームレート(Nikon D850)
・24fps 映画で採用:映画のような表現効果が得られる
・25fps 欧州などPAL 圏内でテレビやDVD に採用
・30fps 日本などNTSC 圏内でテレビやDVD に採用
・50fps PAL 圏内で25fps よりなめらかな映像
・60fps 日NTSC 圏内で30fps よりなめらかな映像
※一般的な動画は 30fps でも充分だが、さらに滑らかな映像が欲しいときは 60fps の設定をするとよい

動画のシャッタースピードを変更するケース
一般的なビデオ撮影では、シャッタースピードを変更することはあまりない。しかし、撮影の目的によっては変更した方が目的に叶う場合もある。

①静止画を切り出したりスロー再生が前提の動画撮影
ゴルフや野球のスイングなどを撮影して、あとで静止画・スロー再生でフォームを確認したい場合などは、1 コマ1コマぶれなく写っている方が良い。この場合はシャッタースピードを速くし、できるだけブレがないように撮影する。

②フリッカー対策
一般的なビデオカメラのデフォルトでは1/60 か1/100 に設定されている場合が多いようだが、蛍光灯や水銀灯のちらつき(フリッカー)と同期させるためだ。交流電源の周波数が東日本では50 Hz、西日本では60Hzなので、画面にフリッカーが出てしまうときは東日本では1/50 か1/100、西日本では1/60 に設定するとフリッカーを軽減できる。尚、プロジェクターの映像は1/60 が多いので、プロジェクターを使用した会議などの撮影は注意が必要だ。


画面にフリッカーが出てしまう

ゲイン調整とND フィルタ
基本はアイリスとシャッタースピードによる露出調整だが、それを超える場合はゲイン調整が必要になる。
静止画ではフィルム時代の規格を踏襲してISO 感度表示だが、こちらはストレートにカメラ内の入力アンプで映像信号をさせる値をdB(デシベル)で表す。もちろん安易なゲインアップはノイズなどの画質低下を招く。このカメラではメニューのAGC リミット(オートゲインコントロール)を切にして、ゲインの上限値を設定する。(24dB/21dB/18dB/15dB/12dB/9dB/6dB/3dB/0dB)
またこれとは逆に明るすぎる場合、明るいところでもアイリスを開きたい場合などはND フィルターを使用する。(ビデオカメラによっては内蔵されている機種もある)


明るいところでもアイリスを開く場合はND フィルターを使用。画作りの関係で高速シャッターが使えない場合が多い動画では静止画以上に必要頻度は高い

業務用ビデオカメラでの撮影


こちらはSONY のNXCAM NEX-EA50JH という機種だ。APS-C サイズの1670 万画素大型イメージセンサーを持ち、SONY やCari Zeiss のE マウントレンズが使用可能、一眼レフ動画にまけない絵作りが特徴だ。このクラスになると基本的に三脚か肩のせでの使用になるが、大きさの割にはデジ一眼などに比べると比重は軽いので(装備で約3㎏)撮影中はそう苦ではない。むしろ安定して操作もやりやすいメリットがある。

こちらではズームは基本的に光学・デジタルの二段階操作だ。ズーム付きレンズではズームリングを左右に回すか、レンズのズームレバーで操作する(光学ズーム)。そして単焦点レンズ用にカメラ本体に2 倍のデジタルズームを備えている。有効画素数1360 万画素のAPS-C センサーにより、2 倍ズーム時でも340 万画素を保持しているので、約207 万画素で構成されるFull HD サイズを上回る画素数となり、従来のデジタルズームでは成しえなかった画質を損なわ
ない美しいズーム映像が短焦点レンズでも得られる訳だ。こちらもズームレバーを軽く動かすとゆっくり、さらに押すと早くズームする等、滑らかなズーミングのための機構が用意されている。

このクラスになると、肩のせや三脚使用でのマニュアル使用が多いことを前提に、よく使う機能の項目ボタンが独立している。その分操作ボタンが多く、初めての方は圧倒されるが、撮影中に一々メニューの深い階層から操作しなくてよいように考慮されており、慣れてくれば大変便利な設計だ。

本体左サイドの操作しやすい位置にフォーカスのアシストボタンがある。フォーカスをマニュアルに設定しても、PUSH AUTO ボタンで一時的にオートフォーカスになり、指を離せばマニュアルで固定されるしくみだ。撮影中、ある人から別な人にピントを移すなどで、なめらかなフォーカス送りの映像が得られる。また画面を4 倍、または8 倍に拡大表示して、より精密にピント合わせが確認できるEXPANDED FOCUS 機能もある。ピント確認のためのピーキング機能も左側中央のアシストボタンの1に割り当てられていて、即座に呼び出せる。

ホワイトバランスも同じく、マニュアル状態で設定してあってもWHT BAL ボタンのワンプッシュでAWT に戻る。またPRESET ホワイトバランスモードにしてあっても、One Push ボタンを押すとモニター上でケルビン値の数値設定も出来る。

露出調整でも、アイリス、シャッタースピードとも左手にそれぞれ独立の操作系があり、これらも動画撮影中の操作を考えた設計になっている。
ゲインもこちらにL・M・H の三段階のスイッチがある。これもデフォルトではH(18dB/ISO800)・M(9dB/ISO400)・L(0dB/ISO160)となっているが、もちろん選定変更も可能だ。(ISO 表示併記は感覚的に分かりやすい)

やはり長年動画撮影に特化して進化してきたビデオカメラには、さまざまな操作系の工夫が積み上げられているよう
だ。次回からは、これらの項目をデジタル一眼レフと比較してみよう。